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サラリーマン社長が会社をダメにする?

M&Aで買収された企業(以下、被買収企業)には、買収した企業(以下、買収企業)から役員待遇で社員が派遣され、場合によっては全権を持つ社長に就任することもあります。では買収企業から派遣された社員は被買収企業を成長させることができるのでしょうか?ちょっとしたフィクション事例を作ってみました。



背景(設定)                               


A社は食品製造を営む創業70年の中小企業でした。地元での知名度は高く、業績は安定していました。しかしながら数年前にM&Aを受け経営権を失いました。その後、親会社から社員が派遣され、A社の社長に就任しましたが、そこから同社の経営状況が面白いように悪化していきました・・・。


ポイント1 損益計算書ばかり気にする                   


損益計算書の最終利益はサラリーマン社長の社内評価表になります。従って税引き前当期純利益の数字を上げることを何よりも最優先に考えます。

損益計算書の数字を上げるための方法は数々あり、例えば「売上原価の低減」や「人件費の削減」を行うことも時としてあります。しかしながら、これらは中長期的な視点でとらえたときに必ずしも歓迎される施策とは限りません。むしろ会社を衰退させる要因になることもあります。

「売上原価の低減」に関しては、別の記事でも記載しましたが、期末在庫を増やすことで売上原価を下げることができます。しかしながら在庫の増加はキャッシュフローの悪化を招くことから中長期視点では、デメリットの方がおおきくなります。経営者は会社や雇用を守るためにも中長期視点で会社の将来を考えることが必要です。従って単年の結果にばかり固執することは褒められたものではありませんが、サラリーマン社長は、単年の結果にこだわるあまり、平気で在庫を増やし売上原価を下げようとします。

「人件費の削減」に関しては、社員を減らすことで経費を抑えることができます。仮に最新機械の導入により、人員を減らし生産性があがるのであれば問題はありませんが、設備投資を行わないまま人員削減を進めると、労働者は疲弊し、うっかりミスや作業が疎かになる結果、品質不良が多数発生することから、デメリットの方がおおきくなります。経営者は多少の余剰人員であっても将来投資の一環として世代交代を含めた人員計画・配置、人材育成を考えていくことが必要ですし、雇用を確保することが地域の発展に繋がっていきます。従って単年の結果にばかり固執することは褒められたものではありませんが、サラリーマン社長は、単年の結果にこだわるあまり、平気で人員を削減し経費を下げようとします。また1人当たりの生産性は下がらなくとも、同じ人員でも正社員を減らし、非正規社員を増やすことで、コストを下げることが可能になりますのでそのような施策もしてきます。

損益計算書は収益と費用を示したものになりますが、実際のお金の動き(儲け)を表したものではなく、一定のルールに従って作成されるものになります。それを儲けと錯覚し、損益計算書の利益だけを追求してしまうことは非常に危険なことです。


ポイント2 責任は次の社長                        


サラリーマン社長は買収企業に何十年間も在職することはありません(せいぜい5年程度です)。退任してしまえば、後の責任は次の社長に引き継がれますので在職期間の問題を隠し、表に出さないようにすることを何よりも最優先に考えます。

問題には、顧客の信頼を失いかねない類のもの以外に、設備や人など将来投資が必要にも関わらず、投資しないことも含まれます。冒頭、サラリーマン社長は損益計算書ばかり気にすると解説しました。投資効果は将来に結果がついてくるものであり、現在においては経費が増える危険性もあるため、単年の成績ばかり気にするサラリーマン社長は将来投資に対し消極的になります。そのツケは必ず将来にまわってきますので、会社を衰退させる要因になることもあります。しかしながら、問題が表面化したときには、きっかけをつくったサラリーマン社長はすでに退任しています。いわゆる「勝ち逃げ」するというわけです。

例えば経営資源のなかには設備や機械のほかに人的資源もあり、その将来投資として「人材育成(若手育成)」があります。将来の会社の中核を担う人材を早くから育てることはとても重要になります。部門ではスペシャリストを、階層ではゼネラリストが育たない会社がどうなるかは想像してもらえるのではないかと思います。サラリーマン社長は、人件費が経費の大半を占めることを知っていますので、その削減を必死になって行います。例えばギリギリの人員で作業をさせる、あるいは社員を退職させ派遣社員で代用することを考えます。さらに翌年には人員をさらに減らし、残った従業員に業務を増やしていく。結局、我慢比べのような状態が何年間も続き、当時中堅であった従業員も定年間近となり、その時に初めて人材が育っていない、世代交代ができていないことに気が付き、焦ることになります。

文書が長くなりますので詳細は割愛しますが、施設や機械も同様です。故障しても修理しない、部品類の定期交換を少しでも延長するあまり、数年後に突発的な故障や品質クレームが発生するという結果になります。


経営資源は金だけではありません。人やモノ(施設、設備)、情報もあります。それを金だけを追求してしまうことは非常に危険なことです。



ポイント3 お山の大将になる       


東京には大小様々な企業が数多く存在しています。そのような競争が激しい環境下において自社の存在感を示すことは極めて難しいと思います。一方でA社は地方企業で、地元でも知名度が高い企業でした。行政、商工会、地元の企業団体などでも存在感がありました。また社長という肩書は他社との付き合いにおいても部長以上の価値があります。これまで数ある企業のひとつの部長クラスとして勤務していた人が、地方で知名度の高い企業の社長に就任すると、周りから人が集まるようになります。一般的に「権力は人を変える」と言われますが、サラリーマン社長は自分が地方の権力者にでもなったかのような勘違いをし、周りの意見を聞かなくなります。

会社は法律上、個人以外に人格を認められた法人になります。周囲は法人としての人格である”会社”に敬意を表しているのであって、個人としての人格である”社長(代表者)”に敬意を払っているわけではありません。ゆえに社長を退任した後、元社長が個人として行政や商工会、地元の企業団体と付き合っても、在職時と同じような扱いを受けるかと言えば、そうはなりません。つまり70年という長い歳月をかけてA社の歴代社長が築き上げてきた法人としての信頼の上に周囲との関係が成り立っているのですが、あたかも個人が評価されていると錯覚してしまうのです。その結果、周りの意見を聞かなくなり、それどころか自分の意見に反論する者を排除するなどの暴挙にも出ます。必然とイエスマンしか周りに残りませんので会社を成長させるようなアイデアが出てくるはずもありません。


社員は社長のために働いているわけではありません。会社のため、お客さんや地域、仲間のために働いています。そのために良かれと思い意見したことが、社長に意見することが許されなくなるならば、次第に誰も何も言わなくなります。新たな価値の創出、時代への適合は企業存続に欠かせない要素になります。それを自分の考えだけを追求していくことは非常に危険なことです。



ポイント4 勉強しない             


サラリーマン社長は買収企業がどのような歴史を歩んできたのか、強みや戦略がどこにあるのか、また社風はどうかなどの勉強はしません。

それはなぜか?

被買収企業と買収企業の力関係において、買収企業の方が立場が上になりますので、自分が所属する買収企業の考えが正しいと思い込んでいるからです。「被買収企業が自分たちに買収された理由は、自分たちより力が弱いから。ゆえにお前たちは俺たちの言う通りになれば強くなれる」と。

規模が大きな企業と小さな企業では戦略・戦術が異なります。地方と中央でも異なります。敵を知るためにはまず自分を知ることが何よりも大切になります。それを立場が上であるからと自分たちの考えが正しいと決めつけ、それを強要するのであれば、誰も何も考えなくなります。自社の成功例だけを根拠に、様々な条件が異なる企業に当てはめ、これまで築き上げてきた被買収企業の礎を壊してくことは非常に危険なことです。


ポイント5 軸がない                           


太平洋戦争時、日本はミッドウェー海戦にて大敗を喫しました。要因のひとつに「兵装転換(空白の5分間)」があったと言われています。指揮官はブレない姿勢でやりきる熱意が必要になります。理由は指揮官の指示には何十、何百人もの部下が従うからです。指揮官がブレてしまうと、その何十、何百人もの部下が混乱に陥り、組織として統制が取れなくなってしまいます。

経営者も同じく、会社としての軸はブラさないようにしなければなりませんが、サラリーマン社長は軸を持っていません。理由は上司の軸で社内を渡り歩いてきたからです。そのようなサラリーマン社長にとって、被買収企業の社長という肩書は次に進むためのステップにすぎません。ゆえに本社から右へ行けと言われれば右に、左に行けと言われれば左にと、本社の指示に反論することなく、ただ言われるがままに何十、何百人の部下に指示を出します。いわゆる伝達屋です。本社に媚びを売り、現場に無理難題を押し付け翻弄する。結果として現場は疲弊するだけで次第に体力が失われ、お互いの信頼関係は無くなってしまう。お互いの信頼関係が無くなってしまうと、仮にすばらしい指示を出しても「どうせ一時的な思いつきでしょ」と現場が動かなくなることもあります。このような状況に陥っている企業は組織の統制が取れなくなっていると言っても過言ではありません。


組織を有効的に運営する上での3つの条件として「共通の目的」「コミュニケーション」「貢献意欲」があります。被買収企業は買収企業のために頑張ってきたわけではありません。そもそもの価値基準が異なっています。それを買収企業の価値観で同じ管理をするあまり、組織の統制が取れなくなることは非常に危険なことです。



まとめ                                  


弁解しておきますが、すべてのサラリーマン社長が上記に当てはまるわけではありません。これまで解説した5つのポイントに合致するサラリーマン社長が会社をダメにするということです。サラリーマン社長は一般的な経営者とは大きく異なります。例えば、雇用が守られている点、顧客が存在している点、資産が十分にある点 など経営環境がはじめから整っており、一般的な経営者が経験している苦労は知らないということです。

経営とは何か?今一度、原点に戻って勉強していただきたいものです。

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