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こうなると会社はうまくいかなくなる

『会社をダメにする7つのポイント』について解説したいと思い、ちょっとしたフィクション事例を作ってみました。



背景(設定)                               


A社は食品製造を営む創業70年の中小企業でした。地元での知名度は高く、業績は安定していました。しかしながら数年前にM&Aを受け経営権を失いました。その後、親会社から社員が派遣され、A社の社長に就任しましたが、そこから同社の経営状況が面白いように悪化していきました・・・。


ダメにするポイント1 理念・方針を急に変える               


A社の企業理念・方針は従業員に染みついましたが、M&AによりA社が長年大切にしてきた企業理念・方針(MVV)は全く違うものになりました。企業理念・方針は会社と従業員を繋ぐ「共通の目的」になります。それが具体的な説明もなく、新たな理念・方針を掲げられ「明日から従うこと」と言われても簡単に受け入れられるものではありません。言い方は悪いですが理解さえしていない状況でした。尤も「買われたのだから当然」との意見があるかもしれません。仮にA社が経営不振であったならば、会社再建のために従業員も必死に理解しようとしたかもしれませんが、A社の業績は安定しており、顧客の信頼と利益は確保できていました。つまりA社の理念・方針は間違ってはいないと従業員は誰もが理解していました。またM&Aを受けた後も体制はそのままで「何も変えない。これまで通り頑張ってほしい」と伝えられていたこともあり、M&Aに不安を抱いていた従業員も安心していました。それが1年後、新社長に交代してすぐに変わりました。この頃から将来に対する不安・混乱を抱く従業員が増え始めました。


ダメにするポイント2 会社を否定する                   


新社長は親会社と異なるA社の社内風土や商習慣を否定し始めました。A社は原材料にこだわりを持っており、高くても質の良い自社スペックを採用していました。しかしながら新体制では「どれも同じ」と否定し安い原料を採用するようになりました。また地元の付き合いで新聞広告や地域団体への加盟を行ってきましたが「業績に繋がらない」と中止させました。実務を持っていない管理職に対しては「人件費の無駄」と新たな実務の追加や役職の兼任などの改革を始めました。A社は創業以来、自社の利益よりステークホルダーとの関係を大切にし、自分たちが社会に認められる存在であることに誇りを持っていました。その裏には「良いモノを創って、良い関係を築いていればお客さんは裏切らない。何かあったときに助けてくれる」との考えがありました。それを「利益最優先」の方針で70年の歴史を否定されることは誰も面白く思っていませんでした。この頃から仕事や社長に対する不信、ストレスを感じる従業員が増え始めました。


ダメにするポイント3 組織改編が多くなる


これまでA社の管理職は、社長との距離が近いこともあり、人事異動や組織、業務を改編する際に相談を受けることもありました。理由は現場をよく知っている者のアドバイスも聞き入れることで机上では見えないリスクを回避しようと社長が考えていたからだと思います。しかしながら新社長は管理職へ相談することもなく、独断で人事異動と組織改編を敢行しました。理由もわからず降格させられた管理職や人員を削られる、あるいは業務を増やされた部署もありました。管理職が納得できない人事・組織体制に改編したところで成果は上がるはずもありません。そして半年後には再び組織改編が行われました。業績が停滞気味のマンネリ化した組織を刺激するために改編するのであれば理解できますが、当時は業績も安定していましたので緊急性を感じていませんでした。恐らくは人事・組織改編を行い、残業代が発生しない管理職に兼任や新たな実務を持たせることで1.5倍働かせ、その分人員削減すれば利益が増えると思ったのでしょうがうまくはいきませんでした。組織改編はある意味、人と業務にリセットをかけることになります。理由は担当者が新たな業務を一から覚え直すことになるからです。しかも半期間に2度の組織改編を行っていれば腰を据えて業務を行うことができるはずもありませんし、落ち着いて施策を考えることもできません。業績は前年割れしました。この頃からモチベーションは急速に悪化。退職する従業員が出始めました。


ダメにするポイント4 会議が多くなる                   


業績が低下するにつれ業績回復に関わる会議が増えました。会議では事実に基づく生データや理解しやすく加工した資料が必要になります。親会社ですぐに取り出せるデータであっても中小企業では人力でデータを抽出し取り出す必要がありました。その作業は短時間でできるとは限らず、また情報処理に精通した管理職が多いわけでもありませんでした。従って管理職は部下にデータや資料作成を依頼することも増え、部下がデスクワークに時間をとられる時間が多くなっていきました。結果として本来業務が疎かになりました。顧客のためではなく、社内のために時間を費やしている状況で業績が上がるはずもありません。この頃から会社に不満を強める従業員が増え始めました。


ダメにするポイント5 コスト削減が始まる                 


業績が上がらないなか、利益を確保する方法としてコスト削減が強く求められるようになりました。主な削減として「人件費」がターゲットになりました。まずは人員削減と残業削減からはじまり、不足する人員は管理職がカバーするようになりました。管理職はマネージャーとしての役割を担っていましたが、自らが実務する時間が増えた結果、チーム運営が疎かになりチーム内の「コミュニケーション」が減りました。また福利厚生の一環として社内旅行や食事会なども行われていましたが、それらも削減された結果、別チームの従業員との「コミュニケーション」も減りました。管理職からチームメンバーに情報が伝えられなくなったことから、会社がどのような状況にあるかわからない不安を抱く従業員も出始めました。コストのなかには将来投資に繋がるものもあります。例えば人件費も若手を採用することは将来に対する投資であり、それを削減していては将来的な人材育成を滞らせる結果に繋がります。つまりコスト削減のなかには「行うべきではない削減」もありますが、A社は現在にばかり目を向けるあまり、それら削減も敢行しました。コスト削減により一時的に利益は確保できても売上高が伸びない限り企業の成長はありません。結果として業績は前年割れとなり、さらには賞与カットまで行うようになりました。赤字経営での賞与カットならば理解できますが、利益が前年割れであるからと言ってカットされたことに従業員の不満は高まりました。しかも急な人事・組織改編や役職の兼任、会議資料の作成など以前より労働時間や精神的ストレスが増しています。まさに「頑張るだけ損をする」かのような状況になりました。この頃から反発する従業員が増え始めました。


ダメにするポイント6 責任を現場に押し付ける               


いろいろと改革を進めましたが、業績はアップするどころか年々下がり続けました。この結果を受け、新社長は「改革についてこない(指示通り動けない)管理職に責任がある」と業績悪化の責任を現場に押し付けるようになりました。しかしながら管理職は言われるまま従い、身を粉にして働きました。そして業績悪化の要因は経営方針、組織改編など舵取りの失敗にあり、責任は新社長にあると考えていました。この段階で新社長と管理職を含む重要員との考えに二度と埋めることができない溝が生じました。この頃から考えて行動する従業員は減るようになりました(考えて行動する従業員は会社に見切りをつけ新たな道へ進むようになりました)。会社に残る従業員は将来的な希望も夢もなく「今を生きる(お金の)ために」と割り切り、会社に対する「貢献意欲」はほとんど残っていませんでした。


ダメにするポイント7 将来ビジョンがない(常に今期が大事)        


そもそも新社長はなぜ結果を急いだのか?後日談ですが親会社はA社を自分たちと同じ理念・方針で経営させる意図はなかったとの旨、関係者から話を聞きました。つまり新社長が改革を進めた裏には、親会社に対し自身の成果を献上する目的があったと推測できます。仮に改革を進めなくてもA社の業績は安定していましたがそれでは成果は低い。親会社と比べA社の劣っている点を親会社のように改善すれば、業績はもっと上がるだろうと考えたのかもしれません。しかしながら長期経営で生き残っている企業は独自の術、強みがあったからこそ生き残れたのであり、残念ながら大手企業の戦略を模倣するだけでは生き残れませんし、業績も上がりません。目に見える成果を出し、それを手土産に親会社へ戻る算段だったのかもしれませんが、それは叶いませんでした。なおこれも後日談ですが、親会社は数多くの中小企業に対しM&Aを繰り返していますが、傘下に入った子会社は、うまくいっていないケースが多いとの旨、聞きました。つまり買い取った会社に派遣された親会社からの社員は出世の通過点として子会社社長というポストを利用し、単年の結果に固執するあまりその子会社の将来までは見ていなかったのでしょう。


組織を有効機能させるための考え方として『バーナードの組織の3要素』があります。3要素とは「共通の目的」「コミュニケーション」「貢献意欲」であり、これら3要素が欠けると組織不全になると考えられています。従業員の心は「不安」⇨「不信」⇨「モチベーション低下」⇨「不満」⇨「反発」⇨「無関心」へと変遷しました。会社に見切りをつけた従業員のなかには退職を選んだ者も多くいます。まさに組織の3要素が崩れたために業績悪化を招いた事例であると言えます。

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