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「月末在庫」を増やすと「総利益」は増えるのか?


別の記事にて「月末在庫を増やすことによって売上原価を下げ、総利益を増やそう」と思う方がいるかもしれません・・・が、それは間違いです。と解説しました。

ここでは、その考えがなぜ間違いであるかについて解説します。


まずはおさらいです。

損益計算書では以下の2つの公式を利用して計算します。


(公式1)

総利益=売上高-売上原価

(公式2)

売上原価=(繰越在庫+当月仕入)-月末在庫



(公式1)と(公式2)では「売上原価」が共通項として存在しています。よって、(公式2)を(公式1)に代入すると以下の(公式3)が導けます。

  

(公式3)

総利益=売上高-(繰越在庫+当月仕入)+月末在庫



左辺の”総利益”は、右辺の”売上高”、”繰越在庫+当月仕入”、”月末在庫”の3つの項の状況次第で「大幅増」「増加」「変化なし」「減少」「大幅減」の5段階のいずれかになります。


(総利益のパターン①)



また右辺の各項も同様に「大幅増」「増加」「変化なし」「減少」「大幅減」の5段階のいずれかになりますので、総利益のパターンは、売上高(5通り)×繰越在庫+当月仕入れ(5通り)×月末在庫(5通り)=125通りあることになります。


(総利益のパターン②)



このパターンをまとめると以下の通りになります。


(総利益のパターン③)



このパターンからは、仮に月末在庫が増えても「売上高や(繰越在庫+当月仕入)次第で総利益が減るケースもある」ということ、つまり月末在庫が増えれば常に総利益が増えるわけではないことがわかります。しかしながら、売上高と(繰越在庫+当月仕入)の影響が無いとき、パターンでは「変化なし」のときは、月末在庫と総利益は同じ動きになることがわかります。


(売上高と繰越在庫+当月仕入の影響が無いときの総利益と月末在庫の変化)



ここで”売上高”と”繰越在庫+当月仕入”を一定にし、”月末在庫”を増やしたときの”総利益”がどうなるか考えてみます。仮に売上高は2,000円(販売単価200円、販売数量10個)、繰越在庫+当月仕入は1,200円とします。月末在庫はケース1が500円、ケース2が700円、ケース3が900円と200円ずつ増やしてみます。すると下記の通り「月末在庫が増えると総利益が増える」という結果になることが確認できます。

(月末在庫が増えたときの総利益)



従って、「月末在庫を増やすと総利益を増やすことができる」ということは間違いではないと言えます。



しかしながら、1点注意すべきことがあります。


「在庫が増える」ということは「商品が売れていない」ということを表しています。


上記のケース1において、販売数量10個、月末在庫金額500円と想定しました。この条件下においてケース3のように月末在庫金額が900円(+400円)になるということは、ケース1と比べて月末在庫400円分の商品が売れていないことになりますが、販売数量は10個と同じ数字になっています。


上記は”売上高”と”繰越在庫+当月仕入”が一定であると仮定した際のシミュレーションになります。このとき、売上原価は減少していますが、現実的には月末在庫が増えただけで原価が大きく変わることはありません。そこで次に売上原価(単価)を70円と設定し、月末在庫が増加したときに販売数量がどうなるかシミュレーションしてみました。月末在庫が350円増加すると、販売数量は5個減ることになります。その結果、売上高は1,000円減少する一方で、売上原価が350円分減りますので総利益はケース1に比べ650円減少することになります。つまり「月末在庫が増えると総利益が減る」という結果になることが確認できます。


(売上原価@70円として月末在庫が増えたときの総利益)



通常、在庫が増えると販売数量は減りますので、売上高と総利益は減少することになります。現実的には、このシミレーションの方が、ピンとくるのではないでしょうか。



ではなぜこのようなことが起こるのでしょうか?


上記のケース1~3は、販売単価と販売数量が把握しやすい1製品でシミュレーションしましたが、現実的には1企業の取り扱い製品は数十~百アイテムがあります。さらには販売単価も得意先によって異なるケースがあったり、材料も様々な製品で共有しているケースもあります。また売上と仕入れでは処理のタイミングが必ずしも一致するわけではありませんので、実際に個別の売上原価をひとつひとつ計算して、個別の製品の売上高から減算して損益計算書を作成することは不可能です。損益計算書を作成するにあたり、売上高は売上計上基準に従って算出し、売上原価は「繰越在庫+当月仕入ー月末在庫」に従い算出しています。つまり互いの計算ルールに従い、独立して算出していきますので、お互いのルール上は問題なくとも、合算したときには違和感を覚えるような結果になってしまっていると言えます。


そもそも損益計算書は収益と費用を示したものになりますが、実際のお金の動き(儲け)を表したものではなく、一定のルールに従って作成されるものになります。それを儲けと錯覚し、損益計算書の利益だけを追求してしまうことは非常に危険なことです。冒頭で解説した通り「月末在庫を増やすと総利益を増やすことができる」とは言えますが、それはあくまでも制度上の利益が増えているにすぎません。在庫はキャッシュフローの悪化を招きます。決して経営状況を良くするものではありません。そのことを熟考したうえで在庫を増やすか否か判断してください。

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