
『管理運営ルール(体制)の策定』について解説します
安全管理には、経営(=安定経営)、品質(=品質安全)、食品(=食品安全)、労働(=労働安全)、環境(=環境保全)など様々な”安全”があります。それら各テーマに関しては、ISOや行政、業界団体などで規格化(ガイドライン)されていますので、そちらを参考にしていただければ問題ありません。ここでは、共通する内容についてご紹介します。
1.管理運営ルール(体制)の文書化
以下に記載した内容は、管理運営ルールとして文書化します。
1.経営トップによる表明
経営トップは、安全に関する考え方を方針として従業員に示す必要があります。一般的には「○○方針」として、ポスター掲示されることが多いです。
【注意事項】
経営トップがめんどくさくて、事務局に方針を考えさせ、それをポスターにしただけのケースもあります。尤も経営トップが署名している以上、経営トップの表明にはなりますが、そのような対応では、活動を続けるにつれて”体裁を整えただけの方針”と従業員に気付かれます。そのような活動はやるだけ無駄。きちんと経営トップが自らの声、表情で安全に関する熱い想いを全従業員に伝え、感じ取ってもらわなければ意味がありません。
2.リスク分析に関する事項
実施者のバラツキが無くなるよう評価方法をルール化します。また一度リスク分析を実施しても、抜けや漏れがある可能性もあります。4M変動の際は、新たなリスクが発生しやすくなります。従って。何度もリスク分析ができるよう実施頻度(基準)も決めておきます。
【注意事項】
一般的にリスク分析は、発生頻度と重篤性で評価していきます。しかしながら、発生頻度の評価をどうするか?重篤性をどうするか?は人の感性によるところもありますし、得点形式で評価しても評価者によって結果が異なることもあり得ます。従って、誰が評価しても同じ傾向になるようルールを定め、さらに結果のバラツキが無くなるよう実施者の評価者訓練を行うことも必要になります。
3.作業手順、機械設備の点検に関する事項
リスク分析の結果、高リスクと評価された作業に対しては必ず手順書を作成します。また法令で求められる定期点検も忘れてしまうと大変なことになってしまいます。従って、それらに関する手順、スケジュールを一覧化しておきます。
【注意事項】
手順書が形骸化し現場との実態が全く異なっているケースが多くあります。手順書の作成には時間が掛かりますし、そもそも変更があっても、すでに作業者の頭のなかに変更事項は入っていますので、手順書の更新が疎かになります。手順書は新規採用者に対する教育や事故・トラブル発生時には必ず必要になります。近年、デジタル技術が急速に発展しています。現場を撮影し、それを手順書として管理すれば、更新も楽になります。
4.教育訓練、資格に関する事項
作業手順、機械設備等の点検を適切に行うための必要な教育訓練、資格を一覧化します。特に雇い入れ時や配置転換時には事故・トラブルが発生しやすいので、必ず教育訓練を実施します。資格に関しては、更新が必要なものもあります。一覧表を作成する際は、資格取得年、更新状況まで記載するようにします。
【注意事項】
「当社には作業手順以外に必要な教育訓練はない」と判断されるケースも多くありますがほんとうにそうでしょうか?必ずしも作業が行えるようにすることだけが教育訓練の目的ではありません(それでは機械と同じです)。安全管理するうえでは、例えば従業員の健康も大切になりますので健康管理について指導する、また行政や業界団体が定めている安全週間(月間)を活用することで既に知っていることを復習して安全意識を高める、従業員参加型の教育訓練として、KY活動やヒヤリハットなどを実施すれば自分で考える習慣が身につきます。それらはすべて教育です。経営資源としてのヒトは、作業できる人間を育てるだけでは足りません。その点を意識して必要な教育を選定する必要があります。
5.工場巡視に関する事項
各職場の作業者は、自分たちが管理運営できていると思って日々の作業を行っていますので、基本的に”問題なし”と考えているはずです(”問題あり”と思って作業していれば大問題です)。しかしながら、その職場を知らない人が別の目で見ると、安全を脅かすような行動や状態に気付くことが多々あります。そのことに気付かせてあげることが大切です。また、ほんとうに管理基準通りにできているかチェックすることで忘れていたルールを思い出させるきっかけにもなります。そのような気づきを与えることが巡視の目的になります。巡視は第三者によって実施されますが、その頻度や実施エリアのほか、経営トップや安全責任者、職場管理者など様々な実施者がいますので、事前に各巡視者の役割を明確にしておきます。
【注意事項】
巡視目的は、”管理基準通りできているか?(=現行の管理基準でリスクが低減できているか?)”、”リスクは潜んでいないか(=現行の管理基準に抜けや漏れはないか?)”の2つがあります。前者は顕在リスク、後者は潜在リスクを低減させるための取り組みと言えます。従って、漫然と工場巡視しても意味はありません。目的を明確にしたうえで実施するためにはチェックリストが必要になります。またチェックリストは一度実施した結果である”点”でしかありません。それを”線”で結び、傾向を分析していくためには、各チェックリストを記録し、分析していくことも必要になります。
6.委員会に関する事項(管理体制図の作成)
安全活動の報・連・相の場として委員会を設置します。議事は各企業の問題が解決できる内容を選びます。また委員会メンバーの選定、開催頻度についても予め定めておきます。
【注意事項】
委員会メンバーや議事内容を固定しているケースもありますが、マンネリ化の元です。開催することが目的ではありません。現在抱えている問題は何か?そこをメンバーで共有し意見交換することが大切です。従って、積極的に参加していないメンバーがいれば、指導する、メンバー変更するなど、マンネリ化を打破するための対策が必要になります。
7.報・連・相の連絡事項
管理運営ルールを定めた後、工場巡視の結果 などインプット情報は必ず、各職場へアウトプットします。また反対に、ヒヤリハットや職場での問題などが見つかった際は、管理者へインプットし、その情報を委員会へアウトプットするようにします。各職場の担当者と管理者の定期的な情報連絡の場としては、朝礼や昼礼、終礼の他、月例会などを活用します。
【注意事項】
情報が挙がってこない、また情報が届かないという声もよく耳にします。話し難い職場(人間関係)が原因になっているケースもありますので、管理者は話しやすい職場環境、雰囲気を作る必要があります。また何でもかんでも報告が挙がってくると管理者は聞くだけで精一杯というケースもでてきますので、報告すべき事項も決めておく必要があります。ちなみに報告すべき事項(優先順位の高い報告事項)を決める際も、現状分析したうえで点数評価し、また報告すべき事項を報告するタイミング、頻度も同時に決めると情報連絡が滞らなくなります。
8.事故・トラブル発生時の対応事項
事故・トラブルは必ず発生します。従って、発生した際は、迅速な対応が必要になります。場合によっては、行政や得意先、関係機関に届け出なければならないケースもありますので、緊急連絡網を作成します。また緊急連絡網が最適であるかどうか?、きちんとルールが理解されているかどうか?などを確認する目的で、定期的に緊急時対応訓練を実施します。
【注意事項】
緊急連絡網を定めても結局は、個々人が勝手に動くケースもあります。これは緊急時対応訓練が機能していない証拠です。そのことを実施者も認めたうえで、現実に即した動きになるよう対応訓練を通じて見直していく必要があります。
2.文書・記録の策定
文書・記録は自分たちが管理運営ルールを遵守していることを示す証跡になります。特に事故・トラブル発生時に役立ちます。だからと言って、あれもこれもと文書・記録を増やすとメンテナンスや記録記入、チェックに時間がかかり、現場の負担になりかねません。概ね、下記の文書、記録があれば大丈夫です。
文書類
安全管理体制図、図面(ヒト、モノの流れ、機械設備配置図)、ハザード・リスク一覧表、フローダイアグラム(作業一覧)、機械設備一覧、安全マニュアル、各種手順書、安全活動年間スケジュール(教育計画、点検含む)、有資格者一覧 |
記録類
リスクアセスメント評価表、各種作業記録、各種点検記録、例会メモ(朝礼などの記録)、教育記録(KY実施記録)、工場巡視記録、委員会議事録、事故報告書、事故発生状況一覧、健康診断結果(集団分析) |
3.管理運営ルール(体制)づくりの進め方
概ね、下記の通りです。
基本は『現状分析 ⇨ リスク分析 ⇨ 対策の立案 ⇨ 実施 ⇨ 検証 ⇨ 再実施』というPDCAサイクルを回すことです。PDCAサイクルについては別の記事で詳しく記載しています。テーマが異なるだけで、手段方法は同じです。

(管理運営ルール(体制)づくりの進め方)
4.どこまで現状分析(標準化)するか?
管理運営ルール(体制)をつくるためには、計画段階が極めて重要になってきます。しかしながら、あまり計画に時間をかけ過ぎてしまうと、実施がどんどん遅れてしまいます。
現状分析した経験がある方はお分かりかと思いますが、現状がおおよそ把握できた段階になって「このケースがある」「あれもあった」となると、改めてほかのケースもチェックするようになりますので、そこから抜け出せなくなります。特に短時間で現状分析を進めようとすると視野が狭くなりますので、正しい判断ができなくなります。従って、まずは実施段階に移すことを最優先に考えます。
完璧な管理運営ルール(体制)はありません。だからこそ、その不備を見つけるための『検証』を行い、管理運営ルール(体制)を見直し『再実施』しています。このサイクルがしっかり回るのであれば、多少不備があっても、サイクルが回るにつれ、完成度は高まっていきます。そこを目指して取り組んでください。
ちなみに、現状分析は”工程単位”ではなく”動作単位”にまで及んだ方が抜けや漏れが無くなりますが、分析にかなり時間がかかりますので、まずは『工程』で分析し、必要に応じ”作業単位”や”動作単位”にまで落とし込んでいくことをお薦めします。

(現状分析の進め方)
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